200000hit記念連載小説

ずっと、ずっと...〜番外編〜       <和兄と彼女2>

〜愛にはまだ遠い...〜

「できたっと!」
日がたつのは早かった。和せんせの教育実習も無事終わって、今日はあたしの16歳の誕生日。ううっ、はっきり言って緊張するよぉ...
テーブルの上にはから揚げとサンドウイッチ、コーンスープも温めるだけだし、サラダも綺麗に盛り付けられた。
ママが無理して仕事休もうかって言ってくれたけど、お友達が誕生日お祝いしてくれるからいいって断った。学校から帰ってきたらテーブルにプレゼントが置いてあった。
ママからはすごく大人っぽいドレスのようなワンピース。カードには外国じゃ1人前ですよって添えられてた。一瞬ばれてるのかなって思った。ママも今日は恋人のところに泊まるみたいだ。もう一つの包みはパパからだった。18金のネックレス...細くて華奢な鎖がすごく綺麗だった。これってきっとあのひとが選んだんだよね?センスいいもん。とてもじゃないけどパパじゃこんなの選ばないよ。去年までぬいぐるみ送ってきてたんだから...
時間は6時まわったとこ、昨日から下ごしらえしてたしね。約束は7時だから...お風呂入る時間あるよね?あたしはお風呂にバスエッセンスをたっぷり入れてゆっくりと浸かった。
今夜和せんせのモノになるんだ...
あの日のせんせがあたしに触れた手や指の感触が思い出されては顔が赤くなる。あの時ママが帰ってこなかったら、きっと最後までしちゃってたと思う。だって、少し怖かったけど、全然嫌じゃなかったもの!いつの間にか慣らされてたのかな?せんせに触れられることに...だめだ、のぼせちゃうよ!!
あたしは思考を中断して急いでお風呂から上がった。取って置きのボディローションなんてつけてみたりする。手や足ぐらいだけど...
ママにもらったドレスも着てみたかったけど、ちょっと早すぎる気がして...それでもあたしにはちょっと大人目なワンピースを身に着ける。その一つ一つの動作が儀式のような気がしてくる。下着は...おにゅうの白のセット。前に買ったやつだけど、シンプルで綺麗だったから気に入ってずっと置いておいたの。

はぁ〜、緊張...リビングのソファに腰掛けてクッションを抱きしめた。
「まだかなぁ...和せんせ。」
7時は回ってる...いつもなら、時間にはすごくきっちりしてるのに...電話もメールもない...
8時過ぎた...やぱっぱりこんな子供相手に出来ないって思ったのかな...そんなはずないって信じたいのに...
和せんせの携帯にメールを入れてみる。
『題名:連絡ください・約束は7時だったよね?どうしたの、用事できたの? 真名海』
メールの返事を待つのももどかしい。けれども返事は返ってこない。
ほんとにどうしたんだろう?
9時を回った...
泣きたい気持ちはもうとっくに通り越してしまった。不安だけが胸を過ぎる。何度か電話もかけてみた。そのどれもが圏外だった。
「和せんせ...」
声に出して呼んでみては、とたんに辛くなって下唇を噛んでしまう。泣くのは簡単だけど、泣けばもう今日が終わってしまうような気がしたから...
本当なら今頃あの広くて大きな胸に抱きしめられ、あの力強い腕が自分を捕らえて離さないはずだったのに...
「やだよぉ...一人はいや...せんせ、どこにいるの?」
どんな時だってすぐに飛んできて、いつだって不安を吹き飛ばしてくれた。両親の愛情が感じられなかった分、せんせがいつもあたしを安心させてくれた。優しく、時には厳しく。いつも大事にされてるのを肌で感じることが出来た。絶対に相手にされないと思ってたのに、想いが実った後は少し有頂天になってたかもしれない。せんせを試すようなことしたり、我侭いったり...罰が当たったんだろうか?あんなに優しい男を独り占めしようとしたから?せんせの夢の邪魔ばかりしてるから?
「あ、メール...!」
ぶるっと振動が手に伝わった。
『メール1件・Re:連絡ください・兄と約束されてましたか?急な事情で行けなくなりました。小畠・妹』
「え?どういうこと??」
妹さんがいるのは知ってる、けどこれって、せんせのアドレスからのメールだよね?いてもたってもいられなくて携帯をコールする。メールが届くということは、電波の届くところにいるっはずだから!
『プルルル・・・ガチャッ、はい小畠の妹ですが...真名海さん?』
「あ、あの、わたし、今日和せ...小畠先生と約束していたんですが、なにかあったんでしょうか?」
『ごめんなさいね、兄はちょっとした事故に巻き込まれて病院なんです。今検査から帰ってきたとこで...』
「ど、どこの病院ですか??」
『公立N病院だけれど...』
「わかりました、あたしすぐに行きます!」
嘘...事故って?がくがくと震えだす手足に気合を入れる。
行かなきゃ...病院に行かなきゃ!
財布と携帯だけを握り締めて外へ飛び出す。大きな通りからタクシーを拾って病院へ向かった。

「すみません、お、小畠和明さんは、どこに?」
「小畠さんなら病室に入られましたよ。503号室です。」
夜間の受付から駆け出していた。
(お願い、無事でいて!)
「和せんせ!!」
「あ...真名海さん?」
病室に飛び込むとそこにはベッドに眠るせんせの姿があった。
「うそ...」
足から力が抜けていく。
「せんせ...やぁ、せんせ、和せんせ!!」
「真名海さん、ですよね?」
ベッドにすがりつくあたしの後ろで名前を呼ばれた。振り返ると、すっごく可愛い女の人が立ってた。せんせに似た雰囲気を持ってるけどもっと華奢な優しさを感じた。
「は、はい...あの、せんせ、小畠先生は、どうなんですか?あの、あたしっ...」
「えっと、兄はね、信号待ちしてた時に飛び出した子供かばって車にぶつかっちゃって...でもこの身体でしょ?とりあえずどこも折れてないんだけど、子供かばった時少し頭打ったらしくって、検査してたんだけど、行かなきゃならないところがあるんだってきかなくって...すごい勢いで周りの人蹴散らそうとするから、病院のひとが鎮静剤打っちゃったの。」
あ、兄って、このひと和せんせの妹さんだ。確か、名前は紗弓さんだ...
「じゃあ、あの、大丈夫なんですか?」
「どこも悪くなんかないのよ。ただ、持ってた物は全部つぶれちゃったけどね。」
指差した机の上にひしゃげたケーキの箱とくしゃくしゃの小さな紙袋。
「あなたの方こそ真っ青よ、大丈夫?」
小首傾げるその仕草があたしより年上に見えなくって...たしか短大生だってせんせ言ってたけど、すごく幼く見える。そう言えばすっごく妹かわいがってて何度か嫉妬したことがある...これだけ可愛かったら無理ないよね?
「紗弓、おばさんたちやっぱり店閉めてから来るってさ。あれ、この娘は?」
ドアから入ってきたのは明るい髪の色した男の人だった。それでもってすっごく綺麗?男の人にそれは失礼かな、でもかっこいい部類に入るのは間違いないよね。
そうだ、あたし自己紹介もしてなかった!あたしは急いで立ち上がる。
「あ、あたし志摩真名海っていいます。○○高校の1年で、和せ...小畠先生には3年間、家庭教師でお世話になってました。」
「3年も家庭教師?そう...あたしは妹の小畠紗弓です。こっちはあたしの、その、彼で、来栖遼哉。うちは店やってて親がすぐに来れないから居てもらったの...」
隣に立った遼哉さんって人が紗弓さんの顔をちらっと覗き込んだ。紗弓さんは軽くうなずいて見せた。しっくりとした雰囲気が漂う...いいな、すごく仲いいんだぁ。
「兄もそのうち目覚ますと思うんだけど...真名海さん、こんな時間に出てきて大丈夫なの?あたしたち両親が来たら交代して帰るから送って行きましょうか?」
「いえ、あの、あたし...小畠先生が目覚めるまで側にいちゃいけませんか?」
「それは構わないけど...ね、兄が急いでたのってあなたとの約束だったのね。」
「はい、今日はあたしの誕生日で、お祝いしてくれるって...だから7時からずっとまってたんだけど、連絡なくって、あたし...ふぇ、うっ...」
今時分になって涙があふれてくる。不意に目の前が薄いブルーの壁でいっぱいになった。紗弓さんがそっと抱き寄せてくれたみたいだった。あたしは我慢できなくて彼女の薄いブルーのカットソーに顔を埋めてしゃくりあげはじめた。
「心配したよね?兄もきっとあなたのことが気になってたのね...すごく暴れたから、ふふ、あんな兄を見たの初めてだったわ。」
「そうだな、和兄が取り乱すなんて生まれて此の方見たことかったね。」
顔を上げると紗弓さんと遼哉さんがおかしそうに笑ってた。
「けっこうでんと構えててなんでも来いだったのにねぇ...」
「こんな可愛い子がいたなんてなぁ...ちょっと年が若すぎる気もするけどね、和兄もやるもんだ。」
あたしは真っ赤になって俯いてしまった。あたしなにも考えずにここまで着ちゃったけど、やっぱりあたしが彼女だってばれてるよね?うう、どうしよう...誰にも知られないようにしなきゃいけなかったのに!妹さんにまでばれちゃって...あ!それだったら早く帰らないとご両親が来ちゃうじゃない!高校の教師になろうとしてる人が、16になったばっかりの彼女がいるなんて知れたら...だめだよね?今なら教え子ってことに出来る...
「あの、そんなんじゃないんです!あたしは和せんせに中1の時から教わってて、うち両親が上手くいってなかったり、母親も忙しくてあたしほったらかしにされてたのを見かねて色々面倒見てもらってて...この3年間せんせに育ててもらったみたいなものなんです。せんせのおかげで高校にも受かったし、誕生日だってあたしが無理いってお祝いしてもらうはずだったし...あの、うちに来る途中だったんですよね?すみません、あたしがお願いしたから、だからっ!」
「馬鹿...なにいってんだよ...真名海...」
後ろから掠れた優しい声が聞こえた。
「せんせっ!和せんせ!よかったぁ...気が付いたんだぁ...」
あたしは思わず駆け寄って抱きつこうとして、押しとどまった。だめだめ、あたしはせんせの教え子なんだから...
「ごめん、な...約束してたのに...あのくらいなんともないのにここの奴等融通が効かなくてな、変なもん打ちやがって...」
せんせの手がそっとあたしの頬に伸びてくる。だめだよ、苦しくなっちゃうよ...
「何いってるのよ!意識不明で病院に運び込まれて、警察から連絡があって駆けつけてみれば検査の先生投げ飛ばしてるんだもん。遼哉がいなかったら誰も和兄止めれなかったんだからね!」
このスリムな紗弓さんの彼氏さんが止めたの?なんかそれもすごい気がするけど...せんせ、暴れたんだぁ。あたしとの約束護るために...だってほんとうは今日は二人にとって大切な夜になるはずだったから...
「まぁな、遼哉も悪かったな。どうせ紗弓のやつが一人じゃこれなくて呼び出したんだろ?」
「いや、一緒にいたから。」
「もうっ、遼哉!」
しれっと紗弓さんを引き寄せて笑う遼哉さんと照れる紗弓さん、すごくお似合いで...いいな、あたしもせんせに釣り合うぐらいの年齢だったら、この場でせんせに抱きついて離れないのに...
「真名海、どうした?」
我慢してた涙がまた流れ出す...せんせが親指で拭ってくれる。でも止まらないんだもん...
「ううっ、悪い、遼哉ちょっと起こしてくれないか?」
まだ薬が効いて動きの鈍い身体で起き上がろうとして断念したせんせは遼哉さんに助けを求めた。あたしも手を貸そうとしてたんだけど完全に下敷きになって潰れかけたから...
「も一つ悪いが二人にしてくれるか?それと親父達が来たら先に教えてくれ。こいつみたらたぶん目むくと思うからな。」
「了解、ごゆっくり。」
そういい残して遼哉さんが紗弓さんの肩を抱いて病室を出て行った。個室のそこにはあたしだけが取り残された。
「真名海、ここにおいで。」
せんせがリクライニングで上げたベッドの際をぽんぽんと叩いた。
「でも...」
「ああ、あの二人にならばれてもいいさ。それに俺は自分の家族にまで秘密にする気はないんだけどな?ただ駆けつけてくる両親がいきなり真名海を見たら、びっくりするだろうなって思っただけだ。たぶん親父には殴られるだろうからな。どう考えたって年端も行かない少女に手出した悪い男は俺のほうだろ?」
「そんなことない!和せんせは悪くないもの!」
「真名海...」
そっと腰掛けたあたしを両腕できつく抱きしめた。
「ごめんな、せっかくの誕生日だったのに...心配しただろ?待たせただろ?」
「ううん、無事でよかった...あたし、せんせにもしものことがあったら、そう考えただけで、もう...じっとしてられなくて、来ちゃったけど、でも、でも...ううっ...」
嗚咽が漏れるあたしの顔を覗き込んで顎を持ち上げてそっとキスされた。
「泣くなよ、せっかくの誕生日だろ?真名海、お誕生日おめでとう。やっと16だな。一番喜んでるのは俺なんだぞ?わかるか?」
「ふぇっ、ふっ、うぅ...?」
「そこの小さい方の紙袋とってくれないか?あぁ、ケーキは見事にぐしゃぐしゃだなぁ...」
腕を解かれたのであたしはその包みを持ってもう一度せんせの側に腰掛けた。
「はい、これ?」
「あぁ、開けてみろよ。」
そういわれて自分で開けてみる。中にはマリンブルーのビロードのケース。あたしが目を丸くしてるとせんせがそれをとってぱちんとふたを開けた。なかには小さな石が集まって花の形をしたシンプルな指輪が収まっていた。
「16になって、俺のものになってくれた真名海に渡すつもりだったんだ。けど、無理するなってことかな?真名海、身体はまだでも心はもう俺のものだろ?」
そういうとあたしの右手の薬指にその指輪をはめた。少し大きくってお花がぐるぐる回ってしまう。
「あれ?大きすぎたかな?」
「ううん、いいの。これがぴったりになる頃には、せんせの隣に並んでも恥ずかしくないようないい女になってるから!」
「今でも十分なんだけどな...ま、楽しみにしてるよ。真名海、お誕生日おめでとう。好きだよ、誰よりも...」
「あたしも、好き、せんせ...」
抱き寄せられて、せんせの唇があたしに触れたとたんあたしを埋め尽くす。いきなり深くって、せんせの舌が入り込んであたしの中を食べつくすみたいで...あたしは力もはいらなくなっていく。いつの間にかキスが終わってせんせの暖かい胸の中に包まれている。
「はぁ、ちょっぴり残念だけど、真名海もらうのもお預けだな...」
「うん...いつでもいいよ?」
「そうだな、自然とそういう日が来るかもだよな。ゆっくり、真名海のペースにあわせるよ。」
「せんせ、我慢できるの?」
「まあな。真名海のこと大切だからな。大事にしたいんだ。無理したり、我慢させたりしたくない。おまえはそれ以外でもいっぱい我慢してるから...それなのに卒業するまではまた一杯我慢させてしまうだろ?俺は、真名海を護るんだって決めてる。俺だけはいつでも真名海の側にいたいと思ってる。たぶん一生、その気持ちは変わらない、その自信ならある。」
「せんせ...好き、ううん、もうそんな言葉じゃ追いつかないよ...」
「俺もだ...愛しいよ...真名海を、愛してる...」
「和、せんせ...」
「コンコン!」
ドアがノックされてあたしは急いでせんせの側から立ち上がった。
「お父さん達来たよ、入ってもいい?」
「ああ。」
ひとしきり心配する両親、馬鹿野郎といって頭を思いっきり殴ってるお父さん。息子の元気そうな顔を見てほっと安堵のため息をついた後、すぐさまこっちに来て、頭を下げるおかあさん。せんせは家族の人にいっぱい愛されて育ったんだ。その愛をあたしにも分けてくれてるあったかい人...ぽっちゃりしたせんせのお母さんは、あたしに馬鹿息子が心配かけてごめんなさいといった。泣いたの?といって肩を抱いてくれた。紗弓さんも側に来てくれて、もう大丈夫でしょう、と言ってくれた。

その日は完全看護もあるのでみんな帰ることになった。車で来てた遼哉さんが紗弓さんといっしょにあたしを家まで送ってくれた。明日退院する時にはもう一度迎えに来てくれるって...その時は両親は仕事だからねと付け足してくれた。

『メール1件:無題:車にぶち当たった時にも、病院に担ぎ込まれて目を覚ました時も真名海の顔しか浮かばなかったよ。明日、ゆっくり逢おうな?カズ P.S愛してるよ』
誰もいない、電気もつけっぱなしの家に帰ってきてからゆっくりとそのメールを開いた。
『返信 題名:あたしも... 明日誕生日やり直してね。 真名海』
ゆっくりと打ち込んで送信する。
テーブルの上のご馳走をパックに詰める。半分は作り直さなきゃいけないけど、明日病院にもって行こう。9時にお迎えに来るって遼哉さん言ってたから、7時に起きて作り直せば間に合うかな?たくさん持っていって、紗弓さん達にも食べてもらおう。
あたしの16歳のお祝いをあの優しい家族のみんなと、
大好きな和せんせと一緒に...
Fin
あれま、予定外にえっちなしで終わってしまいました(笑)まあそれで終わるわたしではありませんが...そうです、初の和兄視点で考えてます。ですからご期待いただいた方には申し訳ありませんが、しばしお待ちを!!といわけです。
で、書きました。次のお話をどうぞ〜18禁です。